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ぞうブロ~ぞうべいのたわごと

妄想を武器に現実と闘う、不惑のエンジニアのブログ

職場が移転した。振り返りとドタバタと

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職場が新拠点に引っ越した。

転職してきて早9年。古い建屋には、しんどくて辛い思い出しかなかった。思い出は美化されるし、過去を省みても意味はないけど、この機会に少しだけ振り返ることにする。

 

転職時、最もやりたくなかったのが設計の仕事だった。前職は設計ではなかったし、設計の人達が四方八方から責められてるのを見て、大変そうだったと思っていた。

面接では前職(ノット設計)の経験を大いにアピールし、手応えを感じて、内定をもらった後の入社一週間前。曖昧な仕事内容に胸騒ぎがして「まさか設計の仕事じゃないですよね?」と人事に確認した。

当時のボスからの返答は一言「まあそう焦るな」だった。思えばあの時点で気付くべきだった。

 

入社初日、今も上司であるキラーマシンとのはじめてのやりとりは忘れられない。

「前職では何の図面を書いてたの?」

「…図面を書いたことはありません」

「え?前職では何やってたの?」

「自動車用プラスチック部品のデコレーションと軽量化です…」

「あ、そうなの。農業機械にはデコレーションなんて要らないよ。あと樹脂を軽くしても意味ないよ。逆に鉄のウェイトを載せて重くしてるから」

キラーマシンは「お前何しに来たん?」いう表情で、僕の経歴を全否定して下さった。そして最後にこう吐き捨てた。

「ここ、鉄工所だから。鉄曲げて図面書いて、ナンボだからね」

 

翌日。中途採用の人達で製図のテストを受けた。当然何も分からず、僕だけほぼ0点。

歓迎会ではボッチ酒の上、彼は即戦力ですと散々プレッシャーをかけられた挙句、酔った年下の社員に絡まれ、

「俺はさぁ、中途採用の中途は、中途半端の中途だと思ってるんだよね〜」

とありがたいお言葉をぶつけられた。おかげさまで、最初の2週間で3キロ痩せられた。

数ヶ月後、面接の時「まあそう焦るな」と言ってたボス(部長)と宴席でご一緒した。ボスは満面の笑みで言った。

「どや?ええ会社やろ〜?」

僕は言葉を出せず、ただ苦笑いしか出来なかった。彼は笑って続けた。

「な?ガチ設計やろ?」

組織ではこういう畜生こそが出世するのだなと思った。

 

仕事の過負荷と、ヤ○ザ社員の怒号が溢れる職場。時には怒鳴られ、机を蹴られ、自分の失敗部品を床に叩きつけられ。今思えば完璧にパワハラ。ここは会社じゃない、広域指定暴力団なんだ。僕は中途社員じゃない、新入り組員なんだ。そう思うと妙に納得できた。

そんな僕を見かねたのか、キラーマシンが助っ人としてよこした定年間近の爺さん社員は、窓際族を極めたサボりの天才。昼寝に散歩、ネットサーフィンは朝飯前。耳が遠いので電話を取らないと言い出し、補聴器を付けてると思ったら、実はワイヤレスイヤホンで音楽を聴いていただけのこともあった。仕事を渡すと、必ず爆発寸前の爆弾に変身させて返してくれる、心優しいクソジジイ。

そんなあっと驚くアットホームな職場のおかげで、今に至るまで幾度となく心を折られた。会社に行けなくなりそうになったピンチは数えきれない。ストレスで円形脱毛症にもなったし、突然視界が1/3ほど消えたこともあった。さっさと次を決め、朝礼で退職の挨拶として、ボロクソに捨て台詞を吐いて辞めてやる。難波で安酒をかっ喰らいながら、そう妄想することが僕の支えだった。

 

だけど気づけば、9年も続いていた。我ながらよく耐え難きを耐えたと思う。歳をとり、所帯を持ち、ローンを背負い、自ら動けなくなったのが大きいけど。

学生時代の専攻と違う。前職の経験が使えない。機械設計は僕には向いてない。そう言い訳し、今もそう思ってるけど、大学、大学院の6年、前職の7年を超え、今の仕事の経験が一番長くなっていた。望む望まないに関わらず、周りから見た自分は、機械設計エンジニアだ。

 

地獄とはいえ、この9年間で、結婚し、子供もでき、家も建てた。ヨーロッパや北海道にも出張させてもらったし、新製品を立ち上げられたし、大きな品質問題も潰せた。ささやかだけど表彰もしてもらったし、特許も取れた。変わり者の友人達も出来た。こんな僕でも組員、いや社員にし続けてくれ、感謝している。

 

そしてようやく気づいた。仕事には、好きも嫌いもない。得意も不得意もない。やるか、やらないか。もっと言えば、やるか、やられるか。

 

他人の機嫌を取る必要はない。全員に好かれるのは無理だ。嫌われても気にしない。もし嫌な思いをさせられたときは、我慢しない。黙ってストレスをためない。拙くても、後からでも、負けてもいいから、本人にはっきりと言いたいことを言う。イジメと同じで、こいつはやり返してくると敵に思わせれば、敵は攻撃してこなくなる。相手は無敵の人じゃなく、自分と同じ立場の社員なのだから。

嫌な人間のことで悩むくらいなら、そのエネルギーを、好きなことに使おう。相手を変えるのは無理でも、自分が変わろう。愚痴を言ったら、その倍はポジティブなことを言おう。どうせやらないといけないのなら、自分だけでも楽しくやろう。

それらの「前向き諦め思考」こそが、この9年で得た最大の教訓かもしれない。

今回の引っ越しは、ちょうどいい機会。嫌な思い出は、全部古い建屋に捨てて行こう。そして心機一転、新しいオフィスで頑張るんだ。

 

そう思った移転初日。真新しい先進的でかっこいいオフィスに入ると、自分の机だけが古く、キャビネットも無かった。事務方の手違いだった。彼らは視察と称して何度も出張してたのに、一体何を見ていたのだろうか。事務方に伝えると、嫌なら勝手に入れ替えてと言われ、仕方なく悪戦苦闘し机を入れ替えた。

すると今度は事務所の照明が暗いことに気づく。まるでホテルかバーのよう。どうやらオシャレのために吹き抜けを多用し、天井を高くしすぎた結果、照明が届いてないらしい。ここを作った人たちは、設計事務所とホテルを間違えたのか、それともオツムが吹き抜けているのか。ヘー○ルハウスのアレみたいに。

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https://dic.nicovideo.jp/t/a/%E3%83%98%E3%83%BC%E3%83%99%E3%83%AB%E5%90%9B

愚痴っても始まらないので、翌朝自宅から電気スタンドを持参。すると事務方がドヤ顔で登場し「皆さんのために手配しましたよー」と電気スタンドを配布し始めた。

そんなことより天井の照明をもう少し明るくしてくれ、せめて配る前に連絡してくれ。そうツッコむ暇もなく、僕の机は電気スタンド二台体勢のスーパーライトアップ状態。

おまけに対面の新人君に「…僕は暗い方が好きなんです…ぞうべいさんのスタンドが眩しくて仕事ができません…」と言われ、取り急ぎ紙でスタンドに遮光板を付けた。

すると例のキラーマシンが飛んできて「何これ?電気スタンドの取扱説明書の何ページの何番のどこそこに、スタンドに紙を貼るなって書いてあるでしょ。読んでないの?」と言われ、泣く泣く紙カバーを撤去。新人君は光をブロックするため、僕との間に段ボールでベルリンの壁を構築。

このままでは明(アカ)ハラで訴えられる。闇属性の新人君に配慮し、スタンドを極力自分に向ける。今度は自分自身が煌々とライトアップされる始末。さながら鈴木その子。画像は自粛。眩しいけど背に腹は変えられない。そういや今でも僕の助っ人認定のサボり爺さんは、早くもサボり先を見つけた様子。席にいないけどどこにいるのかな遠い目…

 

新拠点でのドタバタのおかげで、昔の思い出は綺麗さっぱり忘れられた。感謝しかない。心機一転、頑張ります。