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ぞうブロ~ぞうべいのたわごと

妄想を武器に現実と闘う、不惑のエンジニアのブログ

卒園式 終わりよければ 全てよし

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あの5者面談からバタバタ時は過ぎ、あっという間に迎えた長男の卒園式前日。嫁さんに電話。担任の先生だった。

「明日の卒園式のことで、お話が…」

内容は一瞬で予想できた。明日はうまくできないかもしれません。でも、褒めてあげてください。これまでの生活発表会などと同じ流れ。嫁さん担任の先生に園長先生も交じり緊急3者面談。

聞くと、卒園式の最終予行演習で、壇上で卒業証書をもらった直後、彼はその場でぐだっと寝転んでしまったらしい。

僕は思わず笑ってしまった。嫁さんも。なるほど今度はそう来たか。しかし先生は、こうも教えてくれたそうだ。

卒園式の練習後、彼はいつもぐったりしています。特に今日は、仲良しの友達を相手にできないほど、疲れ切っていましたと。

よほど緊張しているんだろう。この前の5者面談でもあったけど、長男にとっては、その場にじっと座っているだけで必死なんだろう。たとえるなら、高い所にいないといけないけど、自分一人だけ高所恐怖症で、周りは平気、そんな感覚なんだろうか。さぞしんどいだろう。長男がとても可哀想になった。

先生達は言った。

「生活発表会よりも、さらにできないかもしれません。どうか温かい目で見てあげてください」

もちろんだ。この前の5者面談で話した通り、出来た事実をしっかり見つけ、褒めてあげよう。絶対に何があっても叱らない。仏の心と曇りなき眼で、最後の彼の晴れ舞台を、笑顔でしっかり見届けよう。腹は括れている。

もっとも、それどころじゃない事情もあった。乳がん手術を終えた嫁さんが、当初HER2陰性だったのに、HER2陽性の疑いがあると言われたのが、その日の昼だった。HER2陽性は、抗がん剤が2種類に増え、期間も3~6カ月から1~1.5年に延びることを意味する。激しく落ち込む嫁さん。励ましながら僕たちはこう結論付けた。長男は、もちろん次男も、とにかく元気なら、それでいい。

とはいえ、少しでも彼の緊張が和らぐおまじないを見つけてあげたい。帰宅し、長男に明日の話を軽く振ると、途端に口数が少なくなった。明らかに緊張している。僕は笑顔を作り言った。

「だいじょうぶ。あした、パパママもいっしょにいくよ。ぜったいにおこらないからね。」そして「しんどくなったら、こうしいよ」と、両手をグーパーしてみせた。

すると長男は言った。「しんどくなったら、こうする。」そして、お祈りみたいに、両手(両指)を組んでみせた。「それ、ええな!それでいこう」どうやら、担任の先生がこっそり授けてくれていたようだ。それで落ち着いたのか、長男は普通に眠りについた。

 

いよいよ卒園式当日。朝はご機嫌だったが、幼稚園に着くと途端に表情が曇り、ぐずりだした。あーこれはいつものやつかな。この前の生活発表会の日もそうだった。一人だっけ抱っこされギャン泣きし続けた年長の進級式のときもそうだった。今までなら、頑張れと気合をいれていただろう。

しかし今回は違った。「いややんな。でもだいじょうぶやで。しんどくなったら、こうやで」僕はぎこちない笑顔で言い、例のお祈りポーズをしてみせた。長男はうつむき、お祈りポーズを返しながら、幼稚園の先生に抱っこされ連れていかれた。

大丈夫。僕たちの腹は決まっている。どんな結果になっても、笑顔で見届けよう。絶対に叱らない。抱っこされて泣きながら入場してきても、壇上で寝転んでも、奇声をあげても、途中舞台裏に引っ込んでも。そう誓いあい、僕と嫁さんは会場の体育館に移動した。僕は前方の席、嫁さんは後方の席。絶対に笑顔で見届けたい僕の希望だった。

 

それからしばらくして、卒園式が始まった。いつもと違う厳かな雰囲気。こりゃ大人でも緊張するな。長男よ。一緒に、がんばろう。気づけば僕もあのお祈りポーズをしていた。

「卒園生が入場します。」ついにアナウンスが流れ、クラシック音楽の中、年長のみんなが先生に続き入場してくる。泣き声も奇声も聞こえない。先生に抱っこされている子もいない。

長男は、しっかりみんなと同じように入場してきた。ついさっきとは別人だった。落ち着いた表情だ。途中、長男と僕の目が合った。長男は少し、はにかんだ。

その姿を見て、早くも僕は涙をこらえられなかった。

 

式が始まった。ガサガサキョロキョロ、話に聞いていたそんな姿は、微塵もなかった。長男は、他の子と同じように、しっかり座っていた。お祈りポーズをしているのかは、分からなかったけど。

でも途中、ソワソワしはじめ、僕を振り返る場面もあった。僕は、マスクを取り、笑顔であのお祈りポーズを見せた。長男は微笑み、また前を向いた。

いよいよ卒業証書授与。前日壇上で寝転んでしまった最大の難関。不測の事態に備え、各ポイントで先生がスタンバイしてくれていると聞いていた。それに加え保護者にも仕事があるようだ。壇上で卒業証書を受け取った子供達から、保護者がその証書と花を受け取る演出らしい。泣かせる気満々の心憎い演出。前列に座っていた僕が行くことに。

長男の番。自分で席を立つ。列に並ぶ。壇上に上がる。きをつけしてこちらを向いて待つ。保護者の列に並ぶ僕は、長男の行動の各要素をどきどき分解していた。一つ一つ出来た事実を確認していた。今のところ完璧だ。

そしてついに卒業証書授与。園長先生から証書を受け取る。「ありがとうございます!」と元気に返事するところだが、返事がない。沈黙が続く。固唾を飲んで見守る。園長先生と長男が何やら話している。どうやらとても小さな声で「ありがとうございます」を言えたようだ。

お礼をする。寝転ぶな寝転ぶな寝転ぶな。そんな僕たち先生たちの祈りが通じたのか、彼は寝転ばず、そのまましっかり歩き、ギャラリーにも一礼をして、壇上を降りた。先生の助けを借りることは、一度もなかった。

列で待っていた僕は、溢れる涙を拭うこともしなかった。そこに長男がやってきた。慌てて涙を拭う。間違って僕をスルーしようとしたのはご愛嬌。長男は小さな声で恥ずかしそうに「ありがとう」といい、もらった卒業証書と一輪の花を渡してくれた。「えらかったな。よくやったな」そう声をかけ、頭を撫でた。

フィナーレの歌。前を向いている卒園生たちが語り始めた。「ぼくたち、わたしたちは、そつえんします」そして涙腺崩壊ソング「にじ~きっと明日はいい天気」を歌う。息子の表情は分からないが、背中はしっかりしている。

歌い終えると、卒園生たちがくるっと私たちの方を向いた。そして話し始めた。「おとうさん、おかあさん、いままでそだててくれてありがとうございました…」そして涙腺崩壊卒園ソング「おおきくなったよ」を歌い始めた。

僕からは、長男の表情がはっきり見えた。生活発表会のときは、歌が全然できなかった長男。集団行動が大の苦手だった長男。その彼が、みんなと一緒に、しっかり口を開けて歌っていた。ときおり笑顔も見せていた。

この幼稚園に入園して4年。いつもいつも、発表会では一人だけ泣いたり寝転んだりだった。年々他の子との差は広がり、正直いつも惨めで、自閉症スペクトラムという病名が重くのしかかり、参観がしんどくなった時期もあった。年長に上がる前は、真剣に転園も考えた。それでも幼稚園と息子を信じ、この幼稚園に最後までお世話になることを決めた。年長なのに進級式ではギャン泣きし、おむつは途中まで外れず、参観も生活発表会も散々だった。5者面談もした。療育にも散々通った。歌を聴きながら、そんな想い出が蘇った。

そんな長男が、最後の最後に見せてくれた、最高の姿。土壇場でかっ飛ばした逆転サヨナラホームラン。周りの保護者同様、いや多分それ以上に、驚きと嬉しさと感動が涙になって溢れ、止まらなかった。きっと嫁さんも同じだっただろう。

 

卒園式は大成功だった。いろんな先生や友達に挨拶をし、最後は先生たちが作ってくれた花道を通る。長男ちゃーん!よく頑張ったね!そう泣いてくれる加配の先生方もいた。花道の最後にいた園長先生は、僕の腕をつかみ、わざわざ花道から離れ、目を潤ませて言ってくれた。「長男くん、今まででいちばん、落ち着いてましたよ。本当に、凄い!素晴らしいです」僕たちは最敬礼で感謝を伝えた。足りない分は、幼稚園に手紙を書こうと思う。この幼稚園を選んで、信じて、本当によかったです。自分も親として、人として、子供に成長させてもらえました。本当にありがとうございました。そう伝えたい。

幼稚園を出た。「がんばった」「うた、できた」そう嬉しそうに話す長男の顔は、朝とは見違えるように逞しく見えた。たった一日、たった一度の成功体験で、人はここまで変わるのかと驚いた。

長男は、大きな壁を一つ、乗り越えたのだ。

小学校に行っても、いろんなことがあるだろう。でも長男のペースで、いろんなことに楽しんで挑戦していってほしい。パパももっと成長しないとな。

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