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ぞうブロ~ぞうべいのたわごと

妄想を武器に現実と闘う、不惑のエンジニアのブログ

心のまま僕は行くのさ 誰も知ることのない明日へ ~友人Oの想い出~

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最近、Twitterでフォロワーさんが、綺麗な夕暮れの写真に「#このタグを見た人は好きな歌の歌詞をつぶやく」とツイートしていた。脳裏に、とある曲が浮かんだ。

Mr.Children 「Tomorrow never knows」 MUSIC VIDEO - YouTube

発売から28年が経っても色褪せない、ミスチルの名曲。曲よし、歌よし、歌詞よすぎ。

折角なので、この曲を聴くといつも思い出す友人のOについて、想い出を3000字ほど語ってみることにします。

Tomorrow never knows : Mr.Children | HMV&BOOKS online - TFDC-28028

中学時代からの友人Oは、勉強もスポーツも抜群にできた。背も高く、声も渋い。何より、無類の負けず嫌いだった。

中2だったか、体育祭でクラスが負けたとき、彼は僕の肩を掴み、人目も憚らず号泣した。僕は困惑した。

何もそんなに泣かなくても。お前のせいで負けたわけじゃないのに。その有り余る熱さと意志の強さのせいで、時にクラスで浮くこともあった。

 

中2のとき、音楽の授業の発表会で、Oは、この曲をドラムで叩いた。

ドラムといっても、スネア一つで、エイトビートを延々と刻むだけ。

彼に音楽経験はなく、もちろんドラムも未経験。でも、この曲が大好きで、どうしても挑戦したかったのだという。お世辞にもうまいとは言えなかった。でも、能天気にリコーダーをピーヒャラ吹いてた僕には、そんな彼が眩しく見えた。

 

そんな彼には、夢があった。宇宙飛行士だ。

中3のとき、Oに熱烈勧誘された。宇宙飛行士の毛利衛さんの講演会がある。一緒に行くぞ。熱量に押しきられ、ミーハーな僕はついて行った。

和歌山の高野山。青少年向けの講演会。うちゅうはたのしいですか?そんな小学生達の可愛らしい質問に混じり、彼一人だけが、超絶ガチンコの質問をぶつけていた。

一生懸命調べたのだろう。僕はどうしても宇宙飛行士になりたいんです。その溢れんばかりの熱い想いをぶつけた。会場はシーンと静まり返った。

おいおいそれくらいに。みんな目を丸くしてるぞ。彼の隣で内心焦っていた。

 

そんな中、毛利さんは、彼をじっと見て、真摯に質問に答えて下さった。そして壇上から降りてきて、わざわざ彼の席まで来てくれた。

「夢は叶うよ。頑張ってね。君と一緒に仕事ができるのを、楽しみにしているよ。」

毛利さんはそうOに言い、固く握手を交わした。彼は俯き、全身を震わせていた。興奮と感動で、泣いていたのかもしれなかった。

凄い奴だな。もう自分の進むべき道がはっきりしてるなんて。将来の夢なんて何もなかった僕は、ただただ圧倒されていた。

 

いつだったか、下校時、彼と二人で、田舎道を歩いてた時。ふと彼が言った。

「総合力なら、お前がナンバーワンやと思うよ」

何の話かは忘れたけど、自信満々で唯我独尊な彼が、珍しく人のことを褒めた。しかも僕を。もちろん嬉しかった。

お前も何か、夢を持てよ。

同時に、そう言われているような気がした。

 

高校になっても、彼は変わらず、宇宙への熱い想いを持ち続けていた。僕はというと、相変わらず夢は持てず、下手に色気付き、時には一丁前に三角関係に悩んだりしていた。

 

高3の秋頃。彼は電話で僕に報告してくれた。また、悔し泣きをしながら。

目標だった東大を諦めて、他の大学に推薦で行くことにした。逃げるみたいで悔しい。でも俺は、どうしても宇宙の仕事がしたいんだ。

正直、そのまま東大を受けても、多分無理だったと思う。いちばんの夢のため、あの負けず嫌いな彼が、戦う前に負けを認めた瞬間だった。

 

そして彼は現役で、在京の私立大の理工学部に進学した。僕は第一志望に撃沈し浪人した。

辛かった浪人時代、彼はよく手紙をくれた。いつもミスチルの名曲の歌詞を書いてくれた。「終わりなき旅」の歌詞がハガキいっぱいに書かれていたときは、感動で震えた。お前も早く大学生になれよ。待ってるぞ。いつもそう励ましてくれた。

そういえば、昔好きだったりっちゃんも、手紙をくれたっけ。Oとりっちゃんは友達だったから、何か言ってくれたのかもな。Oとりっちゃんの言葉は、浪人時代の僕の支えになった。

 

ようやく大学生になり、久々に会った彼は、以前にもまして、自信に満ち溢れていた。For All Mankind。そう公言して憚らず、まるで新興宗教の勧誘のように、宇宙への熱い想いを、ド真っ直ぐに語る彼は、僕には暑苦し、いや、眩し過ぎた。

二次会で、僕たちは久々にカラオケにいった。トップガンの歌。アルマゲドンの歌。ボンジョビ。バックストリートボーイズ。いつも通り洋楽三昧の彼が最後にチョイスしたのは、懐かしのあの曲だった。やっと日本語の歌がきたよ。僕たちは肩を組み、熱唱した。

無邪気に人を裏切れるほど

何もかも欲しがっていた

分かり合えた友の

愛した人でさえも

 

償うことさえできずに 

今日も痛みを抱き

夢中で駆け抜けるけれども

まだ明日は見えず

勝利も敗北もないまま

孤独なレースは続いてく

 

大学で堕落し目標を見失ってしまった僕とは対照的に、彼は、ついに夢を叶えた。

倍の給料をもらえる外資系コンサル企業を蹴り、JAXAに入社。宇宙開発のキャリアをスタートさせたのだ。

 

その後も東京に行くたび、僕たちは旧交を温めた。相変わらず熱すぎる彼と話すだけで、喝を入れてもらう気になった。

ついでに、宇宙開発事情について、僕も詳しくなった。種子島宇宙センターのロケット打ち上げのニュースのたび、嬉しそうに僕に連絡してきてくれたから。

 

それから数年。あれは32,3のときだったか。東京で飲んでいたとき、彼は衝撃の告白を始めた。

実は、脳に腫瘍ができたんだ。

除去手術を受けないといけない。成功する可能性は高いけど、もし失敗したら、命を落とすかもしれない。

 

その頃彼は、結婚し、可愛い男の子ができたばかりだった。

あの自信満々な彼が、珍しく俯き、押し黙っていた。そしてポツリと言った。

怖いんや、と。

 

僕は思わず、たたみかけた。

アホ!お前が死ぬわけないやろ。いや、死んだらあかん!日本、いや世界にとって損失やぞ。いつもの自信はどこに行った!昔、俺にハガキをくれたあの言葉は何やったんや…!

 

アルコールがだいぶ入っていたせいか、彼は泣いていた。僕も泣いていたかもしれない。居酒屋で二人泣き合うおっさん達。

彼の熱さは、いつしか僕にも乗り移っていたようだ。

それに僕は、この少し前、別の友達を、山の事故で亡くしていた。もう友達を失うのは、絶対に嫌だった。

 

夢を叶えるために、一番大切なものは何か、

彼は身をもって教えてくれた。そして僕をいつも鼓舞してくれた。

今度は僕が、彼を鼓舞する番だ。そう思ったことを覚えている。

優しさだけじゃ生きられない

別れを選んだ人もいる

再び僕らは出会うだろう

この長い旅路のどこかへ

 

果てしない闇の向こうに

Oh, oh 手を伸ばそう

癒える事ない痛みなら

いっそ引き連れて

その後、彼は、無事手術を終えた。

見事、病魔に打ち勝ったのだ。

 

その後、僕は農機メーカーに転職した。

下町ロケットという小説がある。宇宙開発の技術を、農業トラクターに活用する話。全く交わらないと思っていた彼と僕の世界は、意外なところで交わった。

 

最後に彼と会ったのは、僕の結婚式。

友人代表挨拶を、彼にお願いしていた。

自分の結婚式では、一番辛い時に寄り添ってくれた友達に、挨拶をお願いする。そう決めていたからだ。

 

病気を乗り越え、宇宙開発で実績を上げた彼は、ますます自信の塊となり、輝いていた。しかし、挨拶が始まると僕は度肝を抜かれた。

のっけから、ずっと、英語だったからだ。

何やら自己紹介、宇宙開発について語ってる模様。

コイツは一体なんだ?ポカンとする聴衆。呆気にとられる嫁さん。

おいおい待て待て、いつもの飲み会じゃないぞ。僕は彼に目で訴え続けた。数分間の英語のスピーチが、僕には永遠に感じられた。

まあこんな感じで…と、ようやく日本語を話し始めたとき、僕は心から安堵した。彼なりのジョークだったらしい。そしてその後は、しっかり素晴らしいスピーチをしてくれた。

相変わらず、Oらしいな。

 

月日はさらに流れ、僕は立派なおじさんになった。

仕事と家事育児に忙殺される日々。勝利も敗北もないまま、孤独なレースは続いている最中だ。

人は悲しいくらい

忘れていく生きもの

愛される喜びも 寂しい過去も

だから、忘れてしまう前に、この名曲が思い出させてくれた想い出を、書いた。

 

あれから彼とは、年賀状でのやり取りしかしていない。でもきっと、相変わらず熱く元気に、頑張っているんだろう。

 

40を過ぎ、僕はささやかだけど新しい挑戦を始めた。ピアノだ。もちろん未経験。昨日できなかったことが、頑張ればできるようになる。下手くそだけど、とても楽しい。あの頃ドラムに挑戦した彼も、きっと同じだったのだろう。

そして今、この曲を練習している。なかなか時間は取れないけども。

いつか彼と再会し、この曲をセッションできると最高だ。そのときはまた、熱苦しく語りたい。できれば日本語で。

少しくらい はみだしたっていいさ

Oh, oh 夢を描こう

誰かの為に生きてみたって

Oh, oh  Tomorrow never knows

心のまま僕はゆくのさ

誰も見ることのない明日へ