ページ コンテンツ

ぞうブロ~ぞうべいのたわごと

妄想を武器に現実と闘う、不惑のエンジニアのブログ

エンジェルマシン爆誕

スポンサードリンク

前記事https://blueeleson.hatenablog.com/entry/cancer2

嫁さんの乳がん手術日が決まった。手術翌日にはなんと退院。術後数日は、胸にチューブが刺さったままらしいのに。さすがに僕も何日か休まないといけない。今回の件は、リアル知り合いには誰にも話していない。けど、いよいよ上司のキラーマシンに報告しないといけない…

上司のキラーマシンとは、転職し今の機械設計の部署に配属された時からの付き合いだ。自分にも他人にもとても厳しい、仕事の鬼。能力は申し分ない。だがその過剰なまでの厳しさで、相手が誰であろうと、歯に衣着せず容赦しない。頭の中は論理計算で埋め尽くされ、一切の情を持ちあわせていない模様。眼鏡の奥に光る眼光は鋭く、闇深さは底知れず。一言でも曖昧な発言をした者は、次の瞬間、無慈悲に斬り捨てられる。何人ものかよわい若手が休職に追い込まれた。ついた通り名は、キラーマシン。殺人機械。当然のことながら、周囲からは煙たがられ、恐れられ、忌み嫌われる存在だ。

キラーマシン・強 | ドラクエ10 | 経験値・HP・アイテム・白宝箱など (d-quest-10.com)

かくいう僕も、これまで何度斬られたか分からない。何度挑んでも、ボロ雑巾のように斬り捨てられる。僕が1話す間に、キラマは100話し、話そうとする僕を遮ってなぜ黙っているのと言い放つ。出した図面は赤ペンで書き殴られ、まるで血の海のよう。他のチームなら余裕で合格をもらえるアウトプットでも、キラマには全く通用しない。自分だけ延々修正させられ、ほかのチームをもいい加減だと罵倒する始末。その結果僕は、キラマの身代わりとして、他のチームや後工程からも罵詈雑言を浴びせられるようになった。なんでお前のとこだけそんなに遅いんだ。いい加減早くしろ。お前のせいだ。というかキラマを黙らせろ、何なら刺し違えろ、俺たちのためにも。

そんな日々に耐えかね、キラマに異動願を叩きつけたこともあった。そして訴えた。仕事が多すぎます。進みません。ストレスで病みそうです。仕事を減らしてください。

キラマは眉一つ動かさず言った。

「俺も同じように悩んだことがあった。どうすれば仕事のストレスから逃げられるか。出た結論は、土日も、昼夜も、休みなくがむしゃらに働くことだった。そうすれば仕事は進む。従ってストレスもなくなる。すべて解決だ」

決して交わらない二本の直線。昔数学で習ったねじれの位置というやつ。唖然とする僕を残し、面談は終わった。

しかし僕にはだんだん分かってきた。キラマは決して殺人機械なわけではない。それなりの義理人情は持ち合わせている。ただきっと恐ろしく不器用な人なのだ。僕も彼を理解しないといけない。しかし連日のこの仕打ちはあまりにも。理解しよう。いや理解できない。その繰り返しだった。

 

前置きが長くなったが、そんなキラーマシンに、嫁さんのことを報告し、まとまった休みを承認してもらわないといけない。とりあえず黙って三日連続で有休を申請。秒でメールが飛んできた。これはどういうことですか。チャンスだ。すみません少し相談がと、僕はキラマを呼び出した。

 

すみません突然。実は、嫁さんが乳がんになりまして。手術の間、お休みを頂きたいのです…

キラマは黙って聞いていた。いつもは1話すと100言葉が返ってくる人なのに。眼鏡の奥が光った気がした。僕が話し終えるのを待って、キラマは神妙な面持ちで言った。

「そうか…よく話してくれたね。本当に大変だったな。奥さんは大丈夫なのかい。君がしっかり支えてあげないとな」

そして信じられない言葉を言った。

「何か困ったことがあれば、いつでも言ってきて。今日はもう、早く帰ってあげなさい」

キラマの目にも涙なのか、それとも罠か。お言葉に甘えて帰った翌日、キラマから一通のメール。

「まずは奥様の回復をお祈りいたします。ご家屋共々大変だと思いますが、奥様とご家族のことを最優先に考えて行動してください。さて休暇についてですが、社内ルールを確認しました。今回は、ファミリーサポート休暇という制度が適用できます。積立年休で、年6日間まで。有休は取っておくとよいです。申請の方法は…」

キラマは、僕が有休を浪費しなくてもいいように、社内を駆け回り、特休が使えるルールを調べてくれていたのだ。

僕は不覚にも、目の奥が熱くなった。直接お礼を言いにいくと、キラマは不自然にほくそ笑んで言った。

「いやいや。僕は君の上司だから。まあ私は積立年休なんて使ったことがないけどね」

そして照れくさそうに続けた。

「そういや最近読んでるんだよ。部下の気持ちが分かる本をね」

「今日は週末でバスも混んでるだろうから、早く帰ってあげなさい。何かあったら、いつでも言ってください」

すごい。というか、ずるい。ありがたすぎて、本当に泣きそうになった。もうキラーマシンとか呼べないやん。もうキラーマシン改め、エンジェルマシンやん。

Angel slime - Dragon Quest Wiki (dragon-quest.org)

ありがとうございます。キラーマシン。いやエンジェル様。感謝の気持ちで満たされ、僕は帰路についた。

そのとき。会社携帯にメール。差出人はエンジェル。今度は仕事の話。

「ぞうべい君。これとこれを検討し報告をお願い致します。納期は来週月曜中です」

相駆らわずのキラマ納期、キラマ仕事量。ていうかこれって、さぼり爺さんの仕事じゃなかったっけ。

ふと、X(Twitter)のフォロワーさんの言葉を思い出した。

「エンジェルマシン。略して閻魔ですね」

誰がうまいこと言えと。その圧倒的センスに脱帽爆笑しつつ、やはりキラマはこうじゃないとなと、妙に安心したのだった。しかしエンジェルというのは撤退したいと思う。キラーマシンはずっと、キラーマシンなのだ。