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ぞうブロ~ぞうべいのたわごと

妄想を武器に現実と闘う、不惑のエンジニアのブログ

昇進試験を断ると、上司のキラーマシンが衝撃の過去を語り始めた。

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今年は昇進試験を受けないことに決めていた。

昨年は意気揚々と試験を受け、論文試験で論文以外の要素で落ちたので、ショックを引きずっている。それだけではない。

 

転職して数年。思い出すのはいつも、未経験の機械設計職で未知の機械を設計する、悪戦苦闘の苦しくも苦しい日々。

評価部隊や現場のDQN達に馬鹿にされ、上司のキラーマシン達にボコられ、味方であるはずのサボり爺さんに振り回され、過労とストレスで胃潰瘍と脳梗塞になりかけ、鬱病寸前にもなり、二日酔い明けのフットサルでは肉離れと後十字靭帯損傷の重症を負い、腹に贅肉がつき、ついにはコロナにまで罹患した。全部会社のせいだ。

 

出世はいい響きだ。僕だって出世したい。偉くなってキャバクラでチヤホヤされたい。でも代償が大きすぎる。仕事は質量共に激増。年収は増えるが時給は下がり、プライベートはなくなり、上からも下からも叩かれストレス爆増。

今の僕は、自分と家族のことで精一杯。会社や他人のことまで考える余裕がない。情けないけど、これが実力で現実。もう四十路のおっさんは、すぐ諦める。変なプライドなど真っ先に捨てる。折り合いをつけると言い、逃げる。逃げるは恥だが役に立つ。

 

「現状、会社にはこんな問題がある、僕ならこうして成果を出し、会社もお客様も上司も部下も、自分以外みんなハッピーにしてみせる」、そんな思ってもいない嘘を昇進試験でぶちまけるのはもう疲れた。そんなことをする暇があるなら、妄想ポエムをブログで垂れ流したい。下手くそなピアノを弾きたい。子供達と遊びたい。永遠の厨二病のまま、自分探しをしていたい。

 

ああ、僕のサラリーマン人生はここまでだ。今更転職も異動もできない。うだつの上がらないヒラの三流設計者として一生を終える。納得はしていないけど、悔しいという気持ちすら湧いてこない。クビにならず、家族が健康無事なら、それでいいじゃないか。僕はキラーマシンではなく、サボりジジイを目指すんだ。

 

そういや最近のサボりジジイは、耳が遠いと補聴器を付け、電話や呼びかけにも一切応じないと思ってたら、実はワイヤレスイヤホンで音楽を聞いていただけだった。誰にも咎められることなく道なき道を突き進む無敵のジジイ。そんなロックな生き方も悪くないと思うのだ。

 

そんなわけで、人事からの受験意思確認メールには

「受験しません 理由:能力と適性が無いため」

とだけ書き送信。

このメールは上司のキラーマシンと部長のキラーマジンガの承認が必要で、さらに受験しない場合のみ理由も必要。メールを送った数十分後、案の定僕はキラーマシンに呼び出された。

 

「あの理由はないよー」そんな詰問から始まったやりとり。僕も、言葉足らずは認めつつ、思わず本音と泣き言を漏らした。

今の仕事が辛い。僕に設計は向いていない。DQNとは上手くやっていけない。サボりジジイはアンコントローラブル。会社に来るだけで精一杯なんです。まして昇進なんて。

いつもはマシンガントークでこちらの発言を封じ込めるキラーマシンが、珍しく黙って話を聞いてくれた。

すると彼は、思ってもみなかったことを告白し始めた。

「そうだったのか…悪かったな…

実は俺も、辛くてしんどくて、会社に来れないかもという時があったんだ…」

 

俯いていた僕は思わず、頭を上げ、キラーマシンを見た。いつものマシンガントークは影を潜め、キラーマシンは伏し目がちに、語り始めた。

新製品の立ち上げやトラブルが重なり、負荷が限界突破。あまりの苦しさで、通勤時、眩暈で倒れそうになったらしい。

 

「そうだったんですか…すみません辛いことを思い出させてしまいまして」

「いや、いいんだ。俺は悩み、専門家に相談したんだ。そして…」

(休養されたのかな?)

「俺は、土日もガムシャラに仕事をすることにしたんだ」

「!?」

「平日は部下の仕事が多くて、仕事を回せない。それが一番のストレスだったんだ。だから俺は、土日も休まず、ガムシャラに働くことにした」

「……」

「土日は自分の仕事に集中できる。すると平日も余裕をもって部下の仕事ができる。そうするうちに仕事を捌け、ストレスも眩暈も無くなったんだ…」

「……」

「あ、専門家ってのは医者じゃなく、昔の俺の上司だ…」

窓の外に顔を向けたキラーマシンの目元が、日の光に照らされ、潤んでるように見えた。

 

「…まあ色々話したけど、結論や理由を含めて、もう一度考え直してみてくれないか」

「…はい、分かりました」

 

出世するとは、こういうことだ。

キラーマシンのありがたい体験談は、僕の決意を揺るぎないものとした。

今年は昇進試験を受けない。

だからと言って、仕事をサボるわけじゃない。僕はまだ、サボりジジイの領域には到達できない。

その代わりに、文章を書こう。ピアノを弾こう。家族の時間を大切にしよう。健康第一、いのちだいじに。