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ぞうブロ~ぞうべいのたわごと

妄想を武器に現実と闘う、不惑のエンジニアのブログ

リクルーターとは学生を見る人ではなく、学生から面接される人だった。人事のソルジャー29人がくれた8つの熱い質問と、ラストサムライ。

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だまされリクルーター初体験。
優秀なソルジャー29人から、怒涛の質問責めに遭いました。

たった1人のラストサムライを除いて…

 

リクルーターの話が舞い込んだ。

 

面接で、のちの部長から「まあそう焦るな」と騙され、うっかり転職してしまってから、早4年。
初めて触れる機械設計に日々七転八倒し、秘かに次の転職先をリクナビNEXTで探す、クソ中途社員の私。
リクルーターなど、これまで、お世話になったこともないし、お世話したこともない。
元の会社ならまだしも、今の会社でリクルーターをやるなんて、夢にも思わなかった。

 

相手は、技術系志望の学生たち。その数総勢約30名。
正式な面接はこれからだが、大学から推薦をもらってたり、インターンにも参加済。

会社的にも是非来て欲しいという精鋭揃いらしい。

 

私のようなクソ中堅社員が、技術立国・日本の将来を担う、優秀で、やる気と希望に満ち溢れる学生たちを前に、何を語ればいいというのか。
しかも、人事部の監視のもと、笑顔でこの会社をアピールし、入社してもらわなければならない。
そもそも、彼らの意識高い系の質問攻撃に、泣かずに耐え続けられるのか。

 

リクルーター準備。作戦を立てる。

 

開始前。人事からメールが届く。なにやらパワーポイントで自己紹介を作れと。
1ページ目、「自己紹介」。

 

氏名、所属、在籍年数、大学時の専攻。これはまあいい。
2ページ目。「業務内容」。

これも面倒だが、まあいい。


そして問題の3ページ目。

「仕事のやりがい」と、「学生たちへのメッセージ」。
やりがい?そんなものは、ない。強いて言えば、金だ。生きるためだ。
学生へのメッセージ?まあそう焦るな。それだけだ。


そんなこと書けば処刑は免れない。数日間、どう建前を言おうか悩んだが、
「やりがい」

自分ノ設計シタ製品ヲ市場デ見ルトキダヨー
「学生へのメッセージ」

大抵(全員デハナイ)ノ人ハ、仕事ヲ優シク教エテクレルヨー、

安定シテルシ、オススメヨー


最後の殺し文句はこれだ。

ゼヒ私タチト、イショニハタラキマショー。
よしこれでいこう。感情や本音は、極限まで押し殺すのだ。

そして笑顔だ。肚は決まった。

 


開始直前。

 

控え室で、あの忌まわしいメールの送り主である人事の女性から、リストを渡される。

まあまあ可愛い。
こんな可愛らしい女性ばかりが相手なら、テンションも上がるだろうが、

リストを見る限り、どうやらあいにく相手は全員男性らしい。


学生の名前、在籍している大学・学部・専攻、そして部活やサークルなど。

大学名を見る限り、なかなかみんな優秀そうだ。

私のほかに犠牲者(リクルーター)が3人、計4人。

この日のスタイルは、最初にパワポで自己紹介し、その後三、四人の学生グループを4つほど回り、質問に答えるという形式のようだ。

これを2セット、計3時間の苦行。

 

「これは!と思う学生がいたら、こっそりリストにチェックしといてくださいね~おねがいしますっ!」

そう笑顔で話す彼女。

どこか軽く適当っぽいのが気になるが、気のせいだろう。

まあみんな個性がありそうだし、どんな逸材と出会えるのだろう。

楽しみになってきた。

 

 

バトル開始。

 

いよいよ会場入り。

 

黒一色のリクルートスーツ集団が、黙って座ってこっちを怪訝そうに見ている。

アリの大群だ。もしくは某過激派組織の兵士たちだ。

黒と白と肌色の金太郎飴を切りまくれば、こんな光景になるだろうか。

この集団を識別しろというのか。一瞬不安がよぎった。

 

人事の可愛く軽い女性が軽く挨拶し、私たちの自己紹介が始まる。

私は二人目。

しかしスライドの順番が発表順と違う。

テヘペロと直す彼女。幸先良いスタート。

 

一人目はどこかの若手社員。

小さな文字オンリーのスライドに加え、トークでもスベり、

まばらな拍手の中、私にマイクが回ってきた。

 

「こんにちはっ!」「…コンニチハ…」

つかみは完璧だ。この勢いでいこう。

トテモタノシイ会社アルヨー。イショニガンバロネー。

口角が上がっているだけの張り付いた笑顔。

なんとかプレゼンを終える。

 

残り二人も無事スベり、いよいよ質疑応答タイムへ。

学生たち、いや奴らが、

まるで飢えたピラニアが誤って池に落ちた子豚を見るように、私を見たような気がした。

 

そこからおよそ2時間。

数えきれないほどの質問の矢が私を襲った。

その中でもいくつか、大谷翔平もビックリな160km超えの、火の球ストレート質問を紹介しよう。


Q1.「なぜ化学系出身なのに、今、全然関係のない機械設計の仕事をしてるんですか?」
痛いところを突く質問だ。

なんでこんなことになってしまったのか、私が教えてほしい。

というか、全てあの、私を採用した当時の部長に聞いてほしい。

A1.「前職で自動車関係の仕事もしていますし、仕事の中で覚えていけるし研修もしっかりしているので問題ないですよニッコリ」

 

Q2.「前職と比べて、現職のいいところ、悪いところを教えてください」
なかなかいい質問だ。

いいところ?金(少し)と場所。

悪いところ?それ以外全部。

A2.「業界や社風が違うので、一長一短ですけど、どちらも仕事がしやすいいい会社ですよニッコリ」

 


Q3.「開発期間がたったの2年弱?しかもこの少人数で?少数精鋭ですごいですね、どんな工夫されているんですか?」

物は言いようだ。

今いる戦力で、戦うしかないのだ。

ただし、2つだけ確実なことがある。

人は増えない。そして、デッドラインは変わらない。

A3「日々創意工夫を凝らし、チームワークで結束して業務にあたっています、そうして目標達成したときの喜びは大きいですよニッコリ」

 


Q4.「今後御社はどういう戦略で製品開発していくか教えてください」

情報は社長の頭の中にしかない。

社長にイタ電でもして聞いてみてほしい。そして私に教えてほしい。

A4.「お客さんが喜んでくれるような製品を作りたいですねニッコリ…」

 

Q5.「単純な強度解析をされていましたが、設計的に問題はなかったのですか?」

大いに問題ありました。

単純なのしかできません。申し訳ありません。

A5.「機密上ここで出せる、分かりやすいモデルを選んだだけですよ。

実際はもっときちんとやってるので大丈夫ですよニッコリ…」

 


Q6.「将来、どのような製品設計をしていきたいですか?」

仕事はせずとも、人に迷惑をかけないように。

というか設計の仕事はそろそろやめたい。

A6「お客様や後工程に満足してもらえるような、No.1設計者になりたいですね…」

 

Q7.「転職して、よかったですか?」

金回りはよくなったが、その分以上に浪費する。

そして前職とは違い、設計の仕事は好きではない。

面接のときの、あの元部長への積年の恨みを忘れたことはない。

A7「…どちらも一長一短ありますが、今楽しく設計の仕事をやらせてもらっているので満足ですよ…」

 

Q8.「仕事は、楽しいですか?」

A8「楽しいですよ…うっうっ…」

 


黒一色のリクルートスーツに身を包み、夢と希望に満ち溢れた瞳をキラキラさせて、

160km超えの火の球ストレート質問を、

私のハートのアウトローに、バシバシ投げ込んでくる学生たち。

 

こいつらもしかしてサトリか?俺の心が読めるのか?

恐怖を必死にこらえ、人事が遠巻きに監視している中、

張り付いた笑顔で、健気に建前アンサーを返し続けた。

それを無表情に、そして必死にメモしてくれる学生たち。

 

まるで証人喚問だ。

たしかに建前と嘘は違わない。だが偽証罪にはなりたくない。

耐えることに2時間。終わった後、私は心身の不調を訴えた。

これ以上、無理をしないで!心にもないことを言わなくてもいいの!もうやめて!

zohbeyのライフはゼロよ!

私の身体が、危険を察知し、私にシグナルを送ってくれたのだろう。


ここにきて、ようやく私も気が付いた。

これは…逆っ!!俺たちは…面接するのではなく…される側っ…!

これはリクルーター活動なぞではない。

会社への忠誠心を計るための私への面接、いや踏み絵だったのだ。

純真無垢な学生を使った、人事の巨大な黒い陰謀だったのだ。

手駒の兵隊を駆使して社員に踏み絵を強要しながら、

あの可愛い人事の女性も、途中から来た人事のおっさんも、

心の中でほくそ笑んでいたのであろう。

「ほう…奴も、転んだ(=棄教、降伏)か」と。

 

ふと人事の彼女を見た。

彼女は窓の外をぼーっと見ていた。

 

サトリに紛れ込んだ、真のラストサムライを見つけた。

 


人事の手先である優秀な金太郎飴兵隊たちは、全部で約30名。

しかし、その中でただ1人、ずっと爆睡していて、

ただ1人、一言も質問してこなかった男性がいた。

見ると、同じ大学の後輩のようだ。

ただのウトウトではない。

私や人事が隣に座って話しているのに、

上を向いて口を開け、ヨダレが垂れそうなほどに堂々と爆睡。

このメンタルの強さ、賞賛に値する。

まさに弊社が最もほしい、鋼のメンタルの持ち主だ。

 

きっと彼は、やる気や興味がなかったわけではないのだろう。

極悪人事からの至上命令を頑なに拒み、可哀そうな社員を守るため、

あえて汚名をかぶって自らの意思を貫き、

私をソルジャーたちの追及から休ませるだけでなく、

笑わせることで心に余裕を与えてくれた。

彼こそ、ラストサムライ、真の勇者、英雄、メシアなのだろう。

そうに違いない。

 

私はいたく感銘を受け、終了後、例の可愛い人事に告げた。

「学生たちは全員同じで,全く区別がつきませんでした。

しかしあのずっと寝てた彼だけは、鋼のメンタルを持っているので、

ブラックな我が社でも充分やっていけると考えます」

彼女は苦笑しながら言った。

「ん~、彼はちょっと、、エヘッ」

どういうことなのか。まさか採らないのか?

それとも実は彼は実は彼女の、、?

彼女の小悪魔的な笑みからは、真実は分からなかった。

ていうか彼女、いらなかったよね。

 


かたや就活中なのに自分のメンツを犠牲にして社員を守ったラストサムライ。

かたやクソ中途社員。お互い色々大変だと思う。

おそらく同じ会社や職場で、仕事をすることはないだろう。

しかし、私は彼の前途が困難なものでないよう、ツムツムをしつつ鼻くそほじりながら祈りたい。

 

そして残り29人のソルジャーたち。

もし同じ会社・職場になったときは、どうぞお手柔らかにお願いいたします。

クビにしないでね。

 

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