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ぞうブロ~ぞうべいのたわごと

妄想を武器に現実と闘う、不惑のエンジニアのブログ

親父の小言と冷酒は後から効く。

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仕事で悩んだとき。会社で嫌な奴にやられたとき。情けなく悔しい思いをしたとき。

子供の頃、親父が言ってた言葉を、ふと思い出した。

 

 

嫌いな相手にほど、笑顔で近づけ。

媚びることは、悪くない。

尻尾を振られて、悪く思う人間はいない。

 

最初から、自分のやりたいことができるなんて思うな。

10年働いてから言え。

 

男なら、やられたらやり返せ。

負けても良い。一言でもいい。

そうすれば、二度とされなくなる。

されたことは、絶対忘れるな。

 

ハッタリでもいい、最初にガツンとかませ。

舐められたら終わりや。

 

友達は信じるな、敵だと思え。

 

印刷会社の営業マンだった親父。家での寡黙で怖い姿と、休日に鬼の形相で百姓をしてる姿、それらと、いわゆる爽やか営業マンのイメージが、どうもリンクしなかった。家では仕事の話を聞いたことがなかった。もちろん愚痴もだ。

 

真面目で筋を通すが、頑固で不器用な古い男。そんな性格のせいなのか、部長になりながらも、晩年、役員レースから脱落。会社は倒産寸前になり、ボーナスはカットされ、早期退職を勧告された。だいぶ後になってから、母にそう聞かされた。

 

一度だけ、親父が愚痴をこぼしたことがあった。

高校生で反抗期真っ只中だった私に、ビールで酔っ払った親父は、珍しく饒舌だった。

 

人なんて当てにするな。信じられるのは、自分だけだ。

勉強して、とにかく偉くなれ。

でないと、俺みたいに役員になれず、負け組で終わってしまうぞ。

何があったのかは、聞けなかった。

 

でも親父は会社を辞めなかった。家族に、私たち3人兄弟に、飯を食わせるため。学費を払うため。

 

私が腐って大学院を中退しようとしてたころ、親父と大学近くの喫茶店で飯を食べてたとき、親父は突然、給料明細を私に見せた。

今の俺の給料は、これだけしかないんだぞ。

 

そして、お前は時間にルーズだからと、腕時計を渡された。

なけなしのお金で買ってくれただろう、SEIKOの無骨な時計。

 

親父の言いたいことは、痛いほど分かった。

それに応えられない自分が、情けなかった。

 

結局大学院を辞めてしまった私は、拾ってくれた会社で、なんとか社会人になれた。

なけなしの初任給で、私は両親やじいちゃんばあちゃんに、プレゼントを買った。親父には、似合わないほど鮮やかなブルーの、クロエのネクタイ。

朝、親父は私が起きるのを待ち、年不相応なネクタイ姿を見せ、黙って会社に行った。

 

それからしばらくして、親父は会社を辞めた。58だった。わずかな退職金をもらい、早期退職に応じたらしい。

今はひとり、黙々と悠々と百姓をしている。3密とは無縁の職場で、土やカメムシと戯れている。晴耕雨読、リアル宮沢賢治の世界。

 

無口で怖かった親父と、まともに話せるようになったのは、親父がリタイアし、私が社会人になってからだった。

 

母が怪我し、毎年恒例の稲刈り柿取りを、親父と二人でしたことがあった。

昔なら、考えられないことだった。

 

蚊や毛虫と戦い、草と泥だらけで軽トラに乗り込み、一仕事終え、お茶で一服。夕方、西から吹いてくる心地よい風。これが百姓の恵みや。麦わら帽子を取り、親父が言った。あれだけ忌み嫌ってた百姓も、悪くないと思った。

 

その夜、飯の作れない私たちは、近所の焼肉屋さんに行った。牛角だったか、そこしか空いてなかったからだ。唯一空いていたカウンターのカップルシートで、草と泥まみれの男二人は、無言で焼肉を食べ続けた。一杯飲めよ、俺が運転するわ。親父にそう言って奢れるのが嬉しかった。

 

早く所帯を持てと言われ続けるも、紆余曲折あり、私が結婚したのは36。その夏、恒例のお盆のバーベキューで、親父が訥々と語り始めた。

 

お前らには、あちこち連れてってもらった。

夢も見させてもらった。ありがとうな。

 

今生の別れにも聞こえたセリフ。

あと何度会えるか分からない。これが最後かもしれない。

お互いに、そういうことを考えないといけない歳になったんだなと思った。

 

気づけば私も40になり、息子もできた。会社生活は、理不尽と我慢の繰り返し。部長どころか課長にもなれてない。

今になって、冒頭の親父の言葉たちが、胸に染みる。

 

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将来、息子が大きくなったとき、かつての親父のように、心に生き続ける言葉を渡すことは、できるだろうか。

男の、親父の生き様を、背中で語れるように、なれるだろうか。

 

今年は新型コロナと、狂ってしまった妹問題で、恒例の田植えも、柿の消毒も、手伝えなかった。

心苦しかったので、Amazonで作業用の椅子を送った。

 

もうすぐ父の日。

恒例のキリンピールに加えて、親父がいつか行きたいと言っている北海道の地ビールでも贈ろうか。

恩は遠くから返せ。そんな言葉もあるらしいから。

この理不尽と我慢の巣窟で、今日も笑顔で格闘しようと思う。

 

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