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ぞうブロ~ぞうべいのたわごと

妄想を武器に現実と闘う、不惑のエンジニアのブログ

夢のマイホームを買って鬱になる心理。男にとってマイホームとは。

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数年前。会社の友人が、マイホームを購入して、鬱になった。

なんで?念願の夢のマイホームなのに?

彼は言った。

「俺は結婚し、子供も二人できた。そしてマイホームを買った。これで俺の人生は、99%決まってしまった。時間的にも経済的にも、自由は完全になくなった。莫大なローン地獄の中、仕事を辞めることもできない。もう絶対に逃げられない。小遣いもさらに減らされた。残りの人生において、俺が主役になれる場面は、俺の葬式だけだ…

 

普段は陽気な彼の超ネガティブな言葉に、当時まだ独身だった私は戸惑った。 しかし幸せ家族のぜいたくな悩みにも聞こえたのだ。

 

「なるほど…結婚してマイホームを買うと、そうなるのかもしれないね。でも俺みたいな一人モンから見たら、それこそが幸せに見えるよ。羨ましいなこの野郎!

…まさかてめぇ、自慢なのかコラァ!ああ悪かったな、気楽な独身貴族で無意味な合コンばかりしてて!

じゃあ聞くが、休日のイオンで同年代の家族連れを見て、涙したことがあるか!

結婚式の案内が来るたびに凹み、しかも余興まで頼まれ、俺は晒しモンかと憤り、焦り、嫉妬するけど、それを悟られたくない一心で、不自然なハイテンションでこっそり涙を拭きながら獅子舞みたいな恰好をさせられ『我はシェンロン、さあ~願いを言え~』とたわ言を言わされるクソスベリ余興をしたことがあるか!

寝る前どうしようもなく不安になって、涙とヨダレと鼻水で枕を濡らしたことがあるんかぁ!…ハァハァ…どうなんだい、オウ??」

 

彼は弱々しく呟いた。

「結婚して、子供が出来て、家を買えば、あんたにも分かるよ…」

 

当時の私は、独身で子供もなく、マイホームなんて想像すらできなかった。正直に言うと、マイホームなんて不要とすら思っていた。

なぜ、何十年もローンを組み、莫大な借金を背負い、自ら自由を排除するのか。実家に帰ればええやん。賃貸でええやん。ホテル暮らしでも。そもそもそれならなんで結婚して子供をこさえたんだい?と。

 

 

時がたち、私は結婚し、子供を授かった。

そんな今、彼の言ってたことが、分かる気がする。

結婚すると、世界は奥さんを中心に回り始める。さらに子供が産まれると、全てが変わる。

子供は太陽だ。嫁さんは地球。私は月だ。いや月は言いすぎだ。名も無い小惑星。いや宇宙のゴミ。要するにゴミ。産業廃棄物。いや放射性廃棄物だ。

そして、母となった嫁さんは、マイホームと保険が大好きな強靭な生命体に進化を遂げるのだ。

 

ある日、ついに嫁さんが言ってきた。

「子供もできたことだし、そろそろマイホームを探さない?夢なんだ。私たちの居場所が欲しいんだ。」

いよいよ来たか。これで私も、あの友人の仲間入りだ。

でも、私には様々な感情が去来していた。

今は狭い借上げの社宅に住んでいるけど、家族が増え、物が増えると、途端に狭くなってしまう。

岐阜から土地勘のない大阪に嫁いできた嫁さんにとって、自分が落ち着ける居場所が欲しい気持ちも、よく分かった。

 

私は田舎の旧家の長男だった。だから実家と色々揉めることは覚悟していたが、過去の失敗から学習した根回しが功奏し、全然揉めずに済んだ。

実家との距離感は、付かず離れずがお互い丁度いい。私たち親子はその認識で一致していた。それはまた別の機会に書かせて頂く。

あとは、嫁さん私とで人生設計のギャップを埋めていく作業だ。そこもなんとか着地点が見えた。

 

マイホームへの第一歩は、土地探しだ。適当なハウスメーカーに教えてもらいつつ、あちこち回る。楽しいが、とても疲れる。何より土地って高い。高すぎる。世の中のお父さんお母さんはすごいんだな。てかなんでこんなデカい家があちこちにたくさんあるんだ?みんな医者かシャチョさん、脱税王か麻薬王か?ちくしょう。現実は厳しい。いや、上を見ても下を見てもきりがない。他人は関係ない。私たちはこつこつ探し続けた。

 

そして先週。ようやくいい土地が見つかった。詳細はこれからだけど、俺の人生と引き換えにすれば、なんとかなりそうな物件だ。土留めの値段次第だ。 

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ベルエアに建てられた2億5000万ドルの豪邸。全米最高額とされている

イメージはこんな感じだ。

 

ウッドデッキつけよう!ウォークインクローゼットもいいな!ホームシアターも!

横で勝手にはしゃいでいる嫁さん。だいぶ気が早いけど、ひとまず夢が具現化できそうで、良かったな。家族が喜んでくれるなら、俺は喜んで人柱となろう。ローンのため、マイホームにいる時間すらないほど、爺さんになるまで馬車馬のように働きまくる未来が待っていたとしても。きっと男はそのために生きてるんだから…

 

 

帰り道、その土地の近所の、立派な家の玄関で、可愛い娘さんと遊んでいるパパさんを見かけた。

パパさんは座っていたが、髪はボサボサで、目は焦点が合っておらず、全く何の表情もなかった。まるで座ったまま、静かに死んでいるようだった。ああ、彼も家族の幸せのために、自分を犠牲にし、辛い仕事からも逃げられず、家族からはただのATMと認識され、小遣いも限界までカットされ、ついには一切の感情を喪失し、あんなふうに生ける屍になってしまったのだ…!

 

彼の姿が、冒頭の友人、そして数年後の自分に、完璧にシンクロした。

私は車から降り、駆け寄って彼を抱きしめてあげたい衝動に駆られた。

「大丈夫!あなたは十分すぎるほど、よく頑張っている!本当に立派な父親です!決してATMなんかじゃない!だからせめて…笑って下さい!」

そうつぶやき、心の中で合掌をし、私はその家を通り過ぎた。

高台から見える住宅街が、まるで集団墓地に見えた。

 

 

マイホーム。それは男の墓標であり、家族のために生きた証でもあるのだ。

だからせめて、我が家には2畳ほどの書斎が欲しい。ダメならウォークインクローゼットの中にミカン箱と裸電球、あとはWifiとパソコンを置いてくれたら、何も言うことはない。

そして無事マイホームが完成し、ローン地獄に片足を踏み入れてしまったら、もう逃げられないぞ。どんなに嫌でも仕事はやめられない。上司のクツを舐めてでも、会社にしがみつくしかないんだ。南無。

よし、宝くじ買おう。夢を紙切れに乗せて…! 

ちなみに冒頭の友人(ディマリア似)はすっかり元気になり、夢のマイホームで幸せを享受しています。

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