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ぞうブロ~ぞうべいのたわごと

妄想を武器に現実と闘う、不惑のエンジニアのブログ

この世に絶対なんてない。たとえそれがタチウオ釣りでも。

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この世に、「絶対」なんてものはない。

もしあるとすれば、それは『金持ちはモテる』、『北川景子は可愛い』、そして『死』だけだ。

逆に言うと、「絶対」と口にした瞬間、それは嘘つきの始まりとなる。

  • 「この仮想通貨を買えば、絶対儲かりますよ」
  • 「このパワーストーンを身につければ、絶対にモテモテになりますよ」
  • 「ちょっと休んでいかない?絶対何もしないから」
  • 「結婚しよう。絶対キミを幸せにするから」

それは釣りにおいても、例外では無い。

「この釣り場に行けば、絶対タチウオが釣れますよ」

 

10月中旬。土曜日。午前2時。タチウオ釣りには絶好の季節。

仕事と麻雀をこなした後、無類の釣り好きでサッカーアルゼンチン代表MFディ・マリア似の友人(以下ディマリア)に誘われ、私たちは和歌山県の某所へと車を走らせていた。

夜中の高速を中年男二人でドライブするのは、久しぶりだ。目の前に一直線に伸びる夜高速のムーディーなライトの真ん中を、大塚愛のライブDVDを爆音で鳴らすアウトランダーが走り抜けていく。ディマリアは早くも、興奮が抑えきれない様子だ。

途中立ち寄った釣具屋さん。私たちのテンションもマックスだ。

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しかし私には懸念があった。

昨年、嫁さんを連れてディマリア家族と昼の海釣りに出かけたのだが、全く一匹も釣れなかったのだ。

「初心者なのでアジ釣りしましょう。絶対釣れますから!」

時間が経つにつれ、ディマリアの当初の言葉は空虚さを帯び始めた。

「こんなはずはない、こんなはずはない…」

まるで檻の中の熊のように、彼は釣り具を持ったまま周囲を徘徊し始めた。

そして…半日の格闘の末、釣りはボウズ(=一匹も釣れないこと)に終わった。

帰りの車中で、嫁さんが呟いた。「魚、見たかったね」

鉛のような沈黙が、車中を支配した。

 

そんな楽しい思い出が蘇る。

今回は、本当に釣れるんだろうか?いくら自然が相手とはいえ。

「だ~い丈夫っ!先週も同じ時間・場所で、ばっちりテストしてきたんですから。そのときはこ~んなにタチウオが釣れたんですからっ!絶対、今回は大丈夫ですよ!自信があります!任せてください!」

ディマリアの並々ならぬ自信。よし、今度はきっと大丈夫だよね。

 

午前3時、決戦の地に到着。釣り場の近くには、工場現場だろうか、砂みたいなのが積まれている。

 

てきぱきと準備を進めるディマリア。初心者の私は、それをボーっと眺めていた。いや正確に言うと、空を眺めていた。星がものすごく綺麗だったからだ。セッティングを終え、あとはアタリを待つだけ。ディマリアと二人、真っ暗な海と綺麗な星を眺めながら語り合う。

「綺麗な星ですね…」「…私でごめんなさいね」

「いや、それもまた一興ですよ」

「今後は奥さん連れてきて口説いてやって下さい」

「愛人でもいいですよ…」「愛人、か…」

「います?」「否」「どうすれば、できますかね…」

「政治家になるか…プロデューサーになるか…」

「やっぱモテるには権力と金ですよね…」

「はあ…モテたいなあ…金ないなあ…」

「いつブログで億万長者になるんですか?」

「…今の私は謂わば仮そめの姿。そう、さなぎなのです。来世に向け修行を積んでいる身…」「やっぱ宝くじかなあ…」

「ところでなんでタチウオっていうんですか?朝釣れるから朝タチウオ…」「…違います、太刀魚です、刀…」

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(星が写ってないのが残念です)

そんな不毛な会話を繰り返す、中年男2人。

1時間たち、2時間が経った。空がかすかに白み始めた。そろそろタチウオ釣りのゴールデンタイムのはずだ。しかし、一向にアタリが来ない。私たちだけじゃない。周りのおじさんたちもだ。

 

にわかにディマリアが焦り始めた。

見た事ある光景だ。デジャブだ。私は聞いた。「今、野球で言うとどんな状況ですか?」

震える声で彼は言った。「6回が終わり、0-4。ノーヒットノーランをやられてます。しかも全くノーマークの三軍のピッチャーに」

気まずい沈黙が場を包んだ。

 

すると、近くのおっちゃんが叫んだ。「船が入って来るぞ!船!」

見ると、沖合から一隻の船が近づいてくるのが見える。

どうやら、釣り場でもある工事現場に船を着岸させ、砂を運ぶようだ。つまり、船が入ってくれば、それは試合強制終了を意味する。「なんてことだ…」私たちにはもはやどうすることもできなかった。

間もなく、船が到着し、あっけなく試合終了。

f:id:elep-peace:20181023233602j:plain二連続のボウズ。唯一の釣果は、木の枝だった。

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無名投手相手に、ノーヒットノーランのまま、7回雨天コールド負け。悔しさを通り越し、空虚さしか残らない痛恨の敗戦となった。

この日は、私たちだけじゃなく、周りのおじさん達も、全員が一匹も釣れていなかった。まさに「呪われし日」だったのだ…

 

「でも!タチウオがなくても!イカなら!アジなら!まだ場所を変えれば釣れるかも…」

「もういい…もういいんですディマリアさん。私たちは勝負に負けた。大塚愛を聴いて朝ダチウオとか興奮してた、何より釣りの神様を舐めてた罰が当たったんです…」

 

帰りの車は、腹いせの懐メロカラオケ大会と化した。ひとしきり盛り上がったあと、ふいに流れてきたB'zの「OCEAN」が、胸に突き刺さった。

寝不足のまま帰宅すると、嫁は言った。「あれ、魚は?」

息子は無表情で私を見ていた。

いつだってそうだ。仕事でも家庭でも、結果しか見てもらえない。真に大切なのは、プロセスなんだ云々…そんな御託を並べる元気もなかった。

私は、悔しさを押し殺し、力なく微笑み、布団に倒れこんだのだった… 

 

この悔しさ、そしてディマリアと見上げたあの星の綺麗さは、ずっと忘れられないだろう。

まだ、戦いは、終わらない…!待ってろよ(朝)タチウオ…!

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