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ぞうブロ~ぞうべいのたわごと

妄想を武器に現実と闘う、不惑のエンジニアのブログ

中退した大学の恩師の前で講演した。

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大学院を中退してから早20年弱。当時の恩師や先輩達の前で、講演をする羽目になった。

当時助手だった先生は今や名古屋の某大学の教授になり、若くしてケミストリー界の世界的権威。その先生の研究室主催の、定期的な同窓会。例年数名が講演をするらしい。

私はずっと欠席していた。同窓会という名の、アカデミックなケミストリー交流会。ドロップアウトした私にはあまりにも場違いだったからだ。

 

しかし3ヶ月前、研究室の後輩君からまさかまさかの講演オファー。聴衆はオンライン含め総勢200人。もちろんケミストリー一色。海外も含め名だたるアカデミックな研究者が集まる晴れの舞台。そんな人達の前で、僕みたいな畑違いの落ちこぼれが、一体何を話すというのか。あまりにも大それすぎている。最初は本気で冗談だと思った。

 

いつもなら秒で断っていただろう。しかし何をとち狂ったか、僕は引き受けることにした。

人前で話すのは苦手。まして講演なんてしたことない。でも当時ご迷惑をかけた先生達に謝り、恩返しというか、別の世界で頑張ってる姿を見せ、ずっと引っかかっていたモヤモヤを払拭するチャンス。何より自分の中で、ケジメをつける機会になれば。

そう思い、おだてられた豚は彼の口車に乗った。のが馬鹿だった。

 

準備は難航を極めた。一体何を話そうか。ケミストリーで話せることは皆無。なら自分のこれまでを語ろうか。でもそんなんでいいのかな。一応事前に恩師の秘書の方に確認。

すると恩師から伝言。お前が来てくれるだけで嬉しい。話す内容は何でもいい。化学じゃなくてもいい。英語じゃなくてもいい。昔話や人生談でもいい。とにかく楽しみにしています。

その懐の大きな温かい言葉に、僕は胸が熱くなった。よし、やるしかない。腹は決まった。

 

とはいえ、過去の苦い記憶を呼び起こし形にするのは、なかなかの苦行だった。大学院中退、ケミストリーからのドロップアウト、前職での辛い日々、転職の失敗。シリアスすぎてもふざけすぎてもいけない。笑いもいれつつ真剣に。昔書いた「理系工学部はやめておけ」の記事を読み返し黒歴史に悶絶しつつ資料に落とし込む。

 

あとしんどかったのは、建前と本音の葛藤。日常の仕事は、辛くてつまらない。なんなら今すぐにでもやめたい。でも講演では、かっこいい自分を見せたい。ただでさえ凄い人達の前で話す。しかも故郷に錦を飾る的な。僕は元気に頑張ってますと胸を張りたい。そんな理想と現実との狭間で悶絶する日々だった。

 

悪戦苦闘すること数週間。なかなか時間が取れないうえに、子供たちに風邪をうつされるも、本番一週間前、ついに講演資料原稿が完成。出来の方は…後は野となれ山となれ。前日夜まで嫁と僕が風邪で体調不良。頼むからあと一日だけ持ってくれ。

 

そしてついに迎えた当日。家族を連れ、大阪から会場の名古屋までドライブ。

いよいよ本番が始まる。僕の講演は8人中7番目。スーツ姿は僕だけで早速空回り。僕以外はみんな博士号持ち。僕は大学院(修士)中退。

恩師の先生がイントロスピーチ。いつも通り話しますねと、まさかの英語。一人目、二人目の講演は、Zoomで台湾、ドイツから。もちろん英語で、ケミストリーの研究発表。英語とベンゼン環が乱舞している。学生の質疑応答ももちろん英語。何も分からないが、何だか凄いことを話してるのだけは伝わる。

能天気な僕も、さすがに度肝を抜かれた。凄い時代、凄い人達だな。もの凄い場所に来てしまったな。緊張で喉がカラカラに。そこからは、資料英語、講演日本語のスタイルが続く。

いよいよ僕の番がやってきた。ここまできたら、リラックスして堂々とやり切るしかない。オール日本語の純国産浪花節漫談をぶちかましてやる。これがおれの物語だ。

座長の後輩君が、尊敬するおもろいオジサンですと僕を紹介して場を温めてくれ、いよいよ開始。

 

化学と全然ない話ですけど、箸休めがてらお気軽に聞いて下さい。

話し始めてすぐ、斜め前に座っていた恩師の先生が目に入った。

恩師の先生は、目頭を拭っていた。先生は泣いていた。

その姿を見て、僕も込み上げるものを押さえられなかった。涙がこぼれた。でも必死で嗚咽を堪えた。この25分の講演だけは絶対に最後までやり切りたかった。恩師や当時の人たちに、想いを伝えたかったから。

 

前半は現職の話。農業の現状、トラクターについて。やってる仕事の紹介。急遽追加した少しだけ化学と絡む排ガス規制対応の話。

後半は振り返り。引きこもって大学院を辞めてしまった当時のこと。まさか私がこんな講演をするなんて当時は想像すらできませんでした。当時は皆様ご迷惑をおかけしました。先生、みんなと目を合わせて言えた。

それから前職に拾ってもらったこと。辛かったライン実習でバングラデシュ人との出会いで立ち直った話。前職でやった仕事。最初のいじけたコンプレックスはなくなり、カーメーカーのサプライヤーとして自信を持てるまでになったこと。

そして現職への転職。面接で半ば騙され、未経験の機械設計をやる羽目になったこと。トラクターのデコレーション技術を開発したいといったのに、畑作業で汚れるからそんなんいらんと一蹴された笑い話。四年後主担当を任された機械の開発の苦労話。その機械が量産化され、北海道で活躍しているのをニュースで見た時の感動。

これからの目標。有機化学と機械設計、分野は違えど、人類の食糧問題解決に挑むという究極のゴールは同じ。それが僕は嬉しいです。皆様はいわば同志なのです。一緒に頑張りましょう。

おわりに。

私はこれまで人に恵まれてきました。こんな私でもやってこれたのは皆様のおかげです。

世界のケミストリーの最先端で研究している皆様方のことは、本当に心から尊敬しています。今日改めて凄いと思いました。これからのご活躍を祈念いたします。

最後に、一方で、今しんどいな、そう思われてる学生さんがもし万が一いらっしゃったら。こんな道もあるんだな、こんな奴でもなんとかなるんだなと、気が楽になってくれれば、一番嬉しいです。でも学校だけはきちんと卒業しといたほうがいいですよという実体験に基づくアドバイスをさせて頂き、講演を終わります。ご清聴ありがとうございました…

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終わった。拍手に包まれる会場。質疑応答では恩師が手を挙げてくれた。恩師の先生が講演で質問するのは、この同窓会が始まって以来初めてのことだったらしい。

恩師は言ってくれた。

「感動した。これまでの講演で一番良かったよ。話すのも上手になったなあ。ところで質問だけど、君の作ったトラクタ、買いたいんだけど、どこに行けばいいの?」

どっと笑いがわきおこった。

俺テスラから乗り換えたいけど、1000万は高いなあ…

申し訳ございません社割はききません…あと最高時速も40キロしか出ませんので…

学生さんからも排ガスの質問いくつかもらった。急遽追加して本当によかった。

 

会場に来てた当時の先輩や同級生、後輩、その奥さん方が、みんな言ってくれた。

感動したよ。泣きそうになりました。

初対面のポスドクさんにも感動しましたとわざわざ声をかけて頂いた。

 

恩師や学生時代の僕を知る方々に想いが伝われば嬉しいな。

そんな僕の希望は叶った。想像以上の大成功だった。

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前職を過ごし、嫁と出会った思い出の地名古屋。恩師が栄転し今も活躍する名古屋。いくつもの点と点がつながった日、夜の栄の街を家族四人で闊歩。

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そして嫁の悲願だったポポロのもつ鍋で祝杯。

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準備のときは全然興味なさそうで、ポポロに行くことしか頭になかった模様の嫁さん。講演、感動した。すごく良かった。泣いたよ。もつ鍋をむしゃむしゃ食べながら、そう言ってくれた。ほんとかな。ともあれ嫁も子供達もよく頑張ってくれました。

 

嫁子供が寝静まった真夜中。体力の限界はとうに超えている。でもなんだか眠れない。色々な感情が入り混じり、高揚している。そして今これを書いている。

 

本当にいい日になりました。先生、後輩君、研究室の皆さん、関係者の皆さん、資料を見てくれた方、そして家族。名古屋の街。

本当にありがとうございました。f:id:elep-peace:20230924095431j:image